在宅医療の普及を妨げる、在宅医のなり手不足



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訪問診療とは 在宅医とかかりつけ医 で述べた「在宅医のなり手不足」が起きている背景には、何があるのでしょうか。

全国の在宅療養支援診療所の届出数は平成19~22年で2千程度しか増えず、やや伸び悩みが続いています。都市部での整備が進む一方、地方ではあまり新設が進んでいないようです。

在宅療養支援診療所(在支診)とは その概要と動向


在宅医の立場からみた場合、担当する患者の数が増えるほど、いつともわからない様体の急変に備える可能性が高まることになりますので、個人病院での対応が現実的に難しいことは、容易に想像がつきます。

医療機関側は24時間365日いつ患者の様体が急変しても対応できるよう、医師や看護師をスタンバイさせておかなくてはならないわけで、彼らの体力が持たないのは無理からぬことです。


在宅療養支援診療所の制度がスタートした当初は、届出をしながら夜間は電話に出ない等、24時間365日対応というのが明らかに看板倒れのところも、少なからずあったようです。


厚生労働省の発表では、「在宅療養支援診療所の医師の70%以上が、24時間体制への負担を感じている」との調査結果もあります。

かりに数名の交替制で対応するチームをなんとか編成できても、将来経営が軌道にのる前に先行して発生する人件費や施設の維持費負担に耐えきれるかといった「経営の問題」もあります。


細かな話をすれば、交通の発達した都市圏はまだしも、医師が患者宅に駆けつけるための手段が車しかなく、しかも居宅があちこちに点在しているような地方においては、医師が患者の自宅にたどり着くだけでも、結構なエネルギーと費用負担を要します。

(患者の目線でいえば、医療機関は「自動車で30分以内で到着できる距離」にあるのが良いとされます。ちなみに診療報酬上は、直線距離で半径16キロ以内の訪問診療でなければ、原則として保険は不適用です。)

仕事の厳しさゆえ、残念ながら在宅医療を始めてわずか数年で撤退する医師もいるようです。


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もちろん国も在宅医療の強化を掲げる以上、ただ手をこまねいているわけではありません。

別記事で解説しますが、2012年には在宅医療に関わる診療報酬を改定し、機能強化型の在宅療養支援診療所(在支診)・在宅療養支援病院(在支病)が、新しく設けられました。


これは24時間対応に備えた設備を持った拠点を増やすことにより、在宅医療に従事するチームの負担を減らしつつ、関連する診療報酬を手厚くすることによって在宅医のやる気を引き出そうとするものです。 

(しかし機能強化型は「常勤の医師数が3名以上が必要」などの要件が設けられており、前述のとおり経営のめどが立ちにくい状況下、先に人件費が出て行く状態でスタートするのは難しい、等の批判もあります。)


また厚生労働省は、平成25年度からの5カ年医療計画や診療報酬の改定においても、「在宅医療推進」の姿勢をさらに明確に打ち出しています。

たとえば2016年4月からは認知症患者のかかりつけ医の診療報酬新設や、紹介状無しで大病院を受診する場合に5,000円(再診は2,500円、いずれも救急搬送時を除く)の定額負担を求める等の制度変更が行われ、実施されています。

在宅医療・介護の推進について【PDF】(厚生労働省 在宅医療・介護推進プロジェクトチーム)


現状で国は、24時間365日動く在宅チーム医療を実現するための拠点作り・介護とも連携したサービス提供ができる「地域包括ケア体制」の強化に重点を置いているように見えます。

しかしその一方で、在宅医となるための体系的な教育システムの確立や、医師個々人のモチベーションやスキルアップのための具体的な方策は、さほど目にとまりません。


これからの在宅医療の重要性を誰もがわかっていながら、実際にその現場に身を投ずるとなると、そのあまりの大変さで成り手がなかなか現れない。これは個々の医師の使命感だけにまかせてよい問題ではないことがわかります。


患者にとってもっとも期待するところの「在宅医療医としての技量」は、現場の実践を積む中で経験として磨かれてくるものです。

しかしスタートする以前の段階で多くの問題が予見できるにも関わらず、効果的な解決策をなかなか見出だせないがために、在宅医を志望する医師が出てきづらい状況となっています。


在宅医が増えない、したがって在宅医療の普及が遅れる主な要因のひとつに、「医療機関としての経営面」および「医師の体力面・モチベーション向上の難しさ」の問題が横たわっていることを、我々としても知っておきましょう。


次の記事は「在宅医の探し方と、その注意点」です。

ひとつ前の記事は「訪問診療とは 在宅医とかかりつけ医」です。


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