在宅療養と胃ろう~本人・家族が考えるべきこと



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日々の在宅療養において、口から食事を摂れる限りは、身体が必要とする栄養は食事からまかなえるはずです。

その場合の注意点は、 在宅療養における食事のポイント~訪問栄養指導の活用でも記したとおりです。

しかし病状が進んで普通に食事を摂ることができなくなったときは、「経管栄養法」や「経静脈栄養法(CVポート)」による栄養管理が検討されることになります。


「経管栄養法」は設置した管を介して栄養・水分を補給するもので、よく知られているのは「胃ろう」です。

胃ろう」は胃に穴をあけ、一日に必要な栄養とエネルギー量が計算された専用の栄養製剤を、直接送り込むものです。


別の栄養の入れ方として、片方の鼻の穴から胃まで入れたチューブを経由して行なう「経鼻経管栄養法」もよく行われています。経管栄養は胃ろう以外にも、食道や腸に穴をあけて行なう「食道ろう」「腸ろう」もあります。

また「経静脈栄養法」は、心臓に近い静脈に設置した医療機器(CVポート)を通じて、血管内に栄養液を送り込む方法です。

こちらは血管に直接投与する過程での細菌混入による感染症リスクがあるため、その予防が重要になります。


在宅療養中に胃ろうをつけるか否か、最初の決断を迫られた時に悩む家庭は少なくありません。

胃ろうを造るかどうかは、本人が決定できる状態の場合は本人が、そうでない場合(すでに終末期にある等)は家族や法定後見人が医師と相談して、最終的に決めることになります。

胃ろうの造設は内視鏡手術を通じて行いますが、技術的にそれほど困難なものでなく、また健康保険も適用されます。


本人・家族が現在どういう状況にあるのか、あるいは患者の現在の栄養状態等によっても、胃ろうをつけるべきかどうかの判断は難しくなってきます。

たとえば食事をとれなくなってきた患者の病態が「末期がん」なのか、あるいは「認知症」なのかによっても、胃腸の栄養摂取力がどの程度残っているかは大きく異なってきます。


現状では、多少食事の飲み込みが悪くなってきたレベルでも誤嚥性肺炎が起きることが警戒され、早々に胃ろうをつける判断が成されるケースも少なくないようです。

(ただし日本呼吸器学会の「医療・介護関連肺炎診療ガイドライン」では、「胃ろう(PEG)の造設は、誤嚥性肺炎の予防には勧められない(有効性が期待できない)」としています。)

医療・介護関連肺炎診療ガイドライン【PDF】(社団法人 日本呼吸器学会)


胃ろうの大きな代償は、本人の「食べる喜び」の一部ないし全部が失われてしまうことです。胃ろうをつけたことによって、「最後に食事をしたのは数年前」という患者が数多く生じています。


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技術的には、胃ろうを行いながら並行して食事を摂ることも、あるいは不要になった時に外すことも、可能とされています。

しかし仮に終末期に胃ろうを造ったにせよ、再び食事を摂れるほどに体力を回復することを期待し難いケースも多いことでしょう。胃ろうをつける患者の過半数が病状回復の見込めない人であるとの調査結果も、過去にはあるようです。


また胃ろうを外して再び食事に戻すには、ゆっくりと嚥下機能を回復させるための、家族や介護者の手による長期間のきめ細かなリハビリも必要になります。

これらを考えて「本人の生活の質を落とさないためにも、胃ろうは最初から造るべきでない」との声もあり、家族としては判断の難しいところです。


むろん、胃ろうをつけなければ実質的な栄養補給の道が絶たれてしまうため、選択の余地がほとんどないほどに病状が深刻なケースもあるでしょう。逆に本人に比較的体力があり、回復次第胃ろうを外すことを前提とした「一時的処置としての胃ろう」が効果的な場合もあります。


しかし、全体の生体機能がゆるやかに衰えてきている終末期の患者の場合、外部から強制的に栄養剤の投与を続けることによって、身体の負担がかえって増すリスクは高まります。


また本人が寝たきりで運動の量も少ないときは、胃腸が弱っているために嘔吐や逆流・痰が多くからむ等のトラブルが起きやすいため、入れる栄養剤の量や注入スピードを間違えると、栄養剤を入れている時間帯に本人が苦しがることもあります。

毎日のことですから、こうなると本人だけでなく付き添う介護者も、心理的に苦しい思いが続くことになりかねません。


在宅医療中に家族が本人についていられる時間が短い場合、病院の医師が世話をする家族の負担を考慮して、胃ろうの設置をすすめてくる場合があります。

家族としても、後で取り外せるとの説明も受け、よく検討せずに胃ろうをつける判断に傾きやすいことも、否めません。

しかし、胃ろうの取り外しはあくまで「技術的に」可能ということであって、設置後にいざ判断を迫られたとき、その後の栄養供給方法などを詰め切れず、外すのをずるずると先送りにしてしまう恐れがあります。


経管栄養法そのものは、身体機能・体力の維持に有効な優れた治療であることは確かです。その一方、在宅での胃ろうにおいては、上述のような「本人の生活の質の劣化」を招きかねない様々なリスクも、考えあわせる必要があります。

在宅療養~技術・費用面以外で知っておくべき、2つのこと


特にはじめて胃ろうの造設にあたっては、個々の患者の置かれた状況にもとづく慎重な決断が必要であることを、家族は心に留めておきたいものです。


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