在宅療養における食事のポイント~訪問栄養指導の活用
加齢に伴って高齢者の食欲は少しづつ衰えてきますが、その要因は複合的なものです。
味覚機能はもちろん、目で盛りつけや色合いを楽しんだりする視覚、そして食欲をそそる匂いを楽しむための嗅覚などの「五感」が全般的に衰えてきますし、消化吸収機能の低下も進むことがその背景にあります。
歯の喪失や口腔筋の衰えから生じる、咀嚼(そしゃく)機能や嚥下(えんげ)機能の低下も関係しています。
そして多くの場合、外出が減り家族以外の誰かと食事を共にすることも少なくなっていて、食事に楽しみを見出す機会が全体に減ってきていることもあるでしょう。
いわゆる「高齢者うつ」の症状として、食欲不振があらわれるケースもあります。
食事を簡単に済ませてしまうことによる、栄養バランスの偏りも心配されるところです。
在宅医療の観点で言えば、摂食障害・嚥下障害と診断された場合は、訪問看護師等による摂食・嚥下の訓練が行われることになります。
これは食べ物を用いずに口の開閉や舌の運動を行なうことによって摂食に関わる筋肉を鍛える「基礎訓練」と、実際に食事を摂りながら行なう「摂食訓練」に分かれます。あわせて口腔や義歯の清掃などの「口腔ケア」も行われます。
これらはいずれも機能の維持・向上を目指した訓練であり、家族が食事介助の片手間にできるものではありません。看護師や歯科衛生士による専門的・技術的な指導が必要になります。
そもそも食事という行為は、食べ物を咀嚼して飲み込む、すなわち嚥下(えんげ)の訓練(リハビリ)を兼ねているわけですが、その前にまず「食事が人としての生きる楽しみであること」を、忘れないようにしたいものです。
「美味しく食べる」ためにお金をかけなくても、工夫次第でできることはたくさんあります。
低栄養を避けるべく栄養バランスに気を配ることは大切ですが、食事メニューのみならず調理方法を見なおして、摂食・嚥下機能の衰えを補ってあげることもできます。
食事のペースは本人の状態にあわせて、ゆっくり時間をかけるようにしたいものです。
食事中の会話はもちろん積極的にしたいところですが、食べながら本人に喋らせすぎることは誤嚥につながる可能性もあるため、家族がそれとなく様子を見守りながらコントロールしていく必要があります。
とりわけ終末期に在宅療養される方にとって、日々の食事は人生の終盤を彩る大切なイベントでもあります。食事の時間が楽しくくつろげるひと時になるよう、家族としてもできるだけ心がけたいものですね。
高齢者の誤嚥性肺炎と、介護食における心遣い
普通食を食べられるのが一番良いわけですが、誤嚥を起こさないよう刻み方を一口大にしたり、とろみをつけたりゲル化剤を使ってゼリー状にしたりという方法もあります。
実際にどのようなものか、あらかじめ調理を担う家族が一度体験しておくとよいでしょう。
地域の介護食セミナー・高齢者向け料理教室などがある場合は積極的に参加してみるのもよいし、介護施設を見学し実際の食事メニューを見せてもらうことも、参考になるでしょう。
市販の介護食を使わざるを得ない場合もありますが、費用も高くつくため、補助的に活用することになりますね。温かくあるべき食べ物は温めて出すなど、わずかであっても調理の手を加える心配りがほしいところです。
同様に「高齢者向けの配食サービス」が地域にある場合は、状況に応じて活用を検討しましょう。自治体によっては配食サービスで一定の費用補助が用意されていることもあるので、あらかじめチェックしておきたいところです。
なお在宅療養の食事について相談したい場合は、自宅に管理栄養士が訪問し、食生活や栄養に関する様々な相談に応じる「訪問栄養指導」があります。
訪問栄養Q&A(訪栄研)
訪問栄養指導の利用料は、介護保険の場合「訪問栄養食事指導」として、1回530円(月2回まで保険適用)となります。介護保険を利用している場合は、担当のケアマネジャーに尋ねてみて下さい。
医療保険が使えたり、あるいは市町村が事業として行っていることもあるので、在宅医や病院の専用窓口・地域包括支援センターなどに相談してみましょう。
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