在宅療養~技術・費用面以外で知っておくべき、2つのこと
患者と家族にも必要な、在宅医療への当事者意識では、在宅医療の専門家に向かい合う家族の、当事者としての心がまえについて論じました。
ここでは、在宅での医療・介護技術や費用面に関わるテクニカルな知識以外に、家族として踏まえておきたい2つの点を指摘します。
まず1つめは、「本人が必ずしも、いま治療中・療養中の病気で亡くなるとは限らない」という現実についてです。
たとえば「認知症」「老衰」「がん」等は、症状の進行が比較的緩やかなため、世話をする側もこれからの予測を立てやすい病気です。
とりわけ「がん」はその種類によるものの、一般に高齢者は病状の進行が遅いことから、余命推測の確度も比較的高いとされています。
一方でがんは病状がゆるやかに推移した後、最後の1~2ヶ月に突然状況が悪化することが多く、この「終末期の病状急変の見極め」は、多くの症例を診ている専門医ですら極めて難しいのが現状です。
がんのみならず、脳や心臓・肺・腎臓・肝臓等の重要な臓器において他の病気を併発している場合は、判断がさらに難しくなります。これらの臓器が障害されて臓器不全を起こした場合は、「突然死」のリスクも高まります。
老衰や認知症のように、一般に病状の経過が緩やかな病気で自宅療養を続けているケースでも、容態が急変する可能性は常にあります。
加齢に加え長い在宅療養生活による免疫力の低下から、感染症による誤嚥性肺炎を繰り返したのち容態が急変するケースも、珍しくありません。
家族としてはそのような状況も想定に入れ、日頃から対策を考えておく必要があります。
もちろん「人は皆、自身の最期がいつどのように訪れるかわからない」と言ってしまえば、話はそれまでになります。
しかし在宅医療の現場では、本人も世話をする家族もその病気の治療に一生懸命になるあまり、ともすれば起こり得る他の可能性にまで気が回らないものです。
言い換えれば在宅療養中、とりわけがん以外の病気において、終末期の到来サインを予見するのは担当医であっても難しく、様態が急変するリスクを常にはらんでいるわけです。だからといって日頃から緊張していては、家族が先に疲弊してしまいます。
大切なのは、病状の急変や看取りまでを視野に入れ、先々を見据えながら「こういう場合はこう動こう」といった大まかな見通しを立てておくことです。外部の力も借りながら、できる範囲で少しづつ準備を進めておくことです。
たとえば終末期のある日に、想定される容態の急変が現実のものとなったとき、急性期病院に搬送するのか、あるいは最後まで在宅医の判断を優先するのか。
手術・あるいは人工呼吸器や胃ろうの設置が必要になったとき、家族としてどう判断するのか。
専門の医療機関を症状別にリストアップしたり、医療機器の情報を収集したり、療養生活の合間にできる範囲で下準備しておくと、非常時には必ず役に立つはずです。
気の重くなる結末を想定しながら動くなど、家族ならばなおのこと、気の進まない話でしょう。できることなら本人の病状回復、それがかなわぬまでも現状が安定的に続くことだけを、願っていたいでしょう。
しかし本人の容態が急変したとき、当然ながら家族以外に最終的な判断を下せる人はいないのです。
2つめは、たとえ身内であっても本人と家族との間で、お互いに気づきにくい「気持ちのズレ」が生じる可能性が常にあることです。
在宅医療チーム・介護関係者との連絡や費用面に関わる心配ばかりして、本人の人生そのものに対する目配りがおろそかになっては、それこそ本末転倒です。
もちろん病気の種類や現在の病状でも変わってくる話ですが、治療に気をとられるあまり、終末期に近づきつつある本人の「日々の生活の質」に対する気づかいが、おざなりになってはいないでしょうか。
家族が「本人の病状」を気にかける一方で、当の本人は「自分が去った後の家族の行く末」を心配していたりします。
加えて本人は、自分の世話に家族の時間を使わせているという「心理的な負い目」から、ストレートな希望や本音をなかなか言いにくいのが普通です。
本人は今、ただ自分の病状だけを気にかけているのでしょうか。あるいはそれをすでに超えて、家族のこれからを気にかけているのでしょうか。
本人が胸にしまっている「本当の思い」を見誤ると、たとえ家族であっても、意思疎通はそれだけ難しくなります。
治療関係者や周囲に気を使わざるを得ない病院と異なり、本人がリラックスした環境で生活できることが、在宅医療のメリットです。
それを十分に活かすためにも、本人の表情や話しぶり等に注意を払いながら、「本人の思い」と「家族のいたわりの気持ち」が同じ方向を向くように努める必要があるでしょう。
日々の食事・投薬・リハビリ等をこなすことだけに終始して、結果的に本人の思いや望みを、置き去りにしてはいませんか。
家族とは十分に、言葉を交せているでしょうか。食事の前後の会話は、楽しんでもらえているでしょうか。かつての思い出やいまの思いを、きちんと聞いてあげられているでしょうか。
本人の様態が急に悪化し、臓器不全や呼吸不全等で唐突に最期を迎えることになったとしても、少なくともそれまでの療養の日々は穏やかで満足のいくものであったはずと、のちに家族が振り返ることができるでしょうか。
以上、「療養中の病気以外で亡くなる可能性がある」「家族といえど、本人と気持ちのズレが生じることがある」という2点につき、心に留めつつ動かれることをおすすめいたします。
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