患者と家族にも必要な、在宅医療への当事者意識
患者および家族としては「医療費を支払っているのだから、在宅医や看護師に24時間365日何をどう頼んでもよい」ということにはなりませんし、また医療チームにべったりと全面依存する態度では、質の高い在宅医療を期待することも難しいでしょう。
在宅医療が全国的になかなか普及しない現状の背景には、いつどういう形で様体の変化が起きるかもわからない多くの患者に、医療チーム側が少ない人数で臨まなくてはならないという「サービス提供体制のぜい弱さ」が横たわっています。
もちろん国も問題の所在には気づいており、在宅医療の費用(1)~訪問診療費について でもご説明した「機能強化型の在宅療養支援診療所(在支診)」の診療報酬を手厚くするなどして、チームによる在宅医療の体制を政策的に強化することにより、医療サイドにかかる負担を減らそうとしています。
将来を見据えて在宅医療の強化をはかろうとする医療機関は、自分たちの役割分担を明確にし、専門家としてそれぞれの知見と経験にもとづく「分業」の体制と、患者の病状や治療方針の変化などの最新情報を等しく共有するための「連携(ネットワーク)」をどう効率よく確立していくかについて、真剣に考えています。
患者とその家族は、在宅医や訪問看護師と顔を突き合わせているときだけを在宅医療・診療とイメージしがちですが、医療側は直接の診察以外にも
・カルテの作成や更新
・薬や医療機器の手配
・他の患者のスケジュールとの調整を含む、次回日程の調整
・外部の介護者・医療機関への必要な指示や依頼の手配
・今後の治療方針に関わる、チーム内での情報共有
など患者側の目の届かぬところで成すべき仕事がたくさんあり、各々を誰がどのように担当すれば「効果的な医療」と「効率よいチーム運営」の両立ができるかについて、日々試行錯誤を重ねています。
在宅医療を提供する機関も、厳しい経営環境のなか採算をとっていかなくてはなりませんし、医療チームが疲弊してパンクしては、最終的に患者とその家族に迷惑がかかってしまうからです。
しかし患者やその家族としては「そんなことを言われてもこちらに何ができるの、どうすればいいの」という思いは、当然あるでしょう。
もちろん医療の専門的・技術的な面については、担当の医療チームを信頼し判断していくことで良いのですが、それ以前に外部の在宅医療チームに向かい合う患者サイトの姿勢にも、問題が潜んでいます。
人生の終末期にさしかかっている患者の、在宅における療養・医療を質の高いものにするためにも、担当医療チームと日頃から意識的にコミュニケーションを取り、職業人として彼らが置かれている状況にも理解を示すことが大事です。
そして患者本人と関係者にとって、最適な在宅医療を行なうにはどうしたらよいのかを、当事者として一緒に考えていく姿勢を持つことが必要です。
たとえば連絡先は平常時と夜間緊急時など細かく分けておくほうが良いのか、在宅医と看護師で話すべき内容をそれぞれ区別しておくべきか、緊急時の連絡網をどう取り決めるか、といったことについて、医療チームと日頃からきちんと話し合いを持っておくようにします。
「医療チームが最適な行動が取れるように協力する用意がある」ことを患者側として積極的にメッセージすることによって、医療チーム側も動きやすくなるだけでなく、先々への対処方針に関わる関係者全員の意思統一がしやすくなります。
担当の在宅医や看護師に言われたことだけをやり、何か困ったときには医師の携帯電話に電話をかけるだけ、そして電話にすぐ出ないと誰かれ構わず文句を言う、様態が急変した時は何も考えずに救急車を呼ぶだけ...このような医療チーム任せ、おんぶに抱っこの姿勢では、在宅医療に大きな効果を期待することはおそらく難しいでしょう。
一過性のケガや急性期の病気なら、病院に行って診察と治療を受けること以外、患者側が学んだり考えたりする機会はそう多くないかもしれません。
しかし在宅療養・医療では治療の効果を最大限に引き出すためにも、患者本人とその家族も、在宅医療チームが組み立てようとしている「治療システム」に対しての理解と参加意識が必要になります。
医療者任せではなく、患者側も積極的に学びながら関わろうとする姿勢を、ごく自然に持てるようになること。
これが家族が納得のいく在宅医療を行なうため、、また日本でこれから在宅医療というシステムが普及していくための、きわめて大切なファクターなのかもしれません。
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